総合科学技術会議への声明文
総合科学技術会議
議長 小泉 純一郎 殿
日本地質学会
社団法人 日本物理学会
社団法人 日本天文学会
会長 平 朝 彦
会長
潮 田 資 勝
理事長 松 田 卓 也
2003年11月4日
我が国においては、「科学技術創造立国」の旗印の下に1996年に科学技術基本法が制定され、科学技術の振興による日本の発展を目指すことになりました。
総合科学技術会議はこの基本法に基づき、新たな科学・技術政策を打ち出し、従来の省庁縦割り行政によって分散していた資金を統括して、競争原理を重視して大所高所から重点的に予算を配分することによって、限られた予算を有効に活用する政策を遂行しようとしています。 また、総合科学技術会議が発表した「科学技術基本計画」における「科学技術の戦略的重点化」の項では、そのトップに基礎科学の研究の推進が謳われております。 総合科学技術会議が限られた予算の有効的活用を目指していること、そして基礎科学研究の重要性を認識していることを高く評価したいと思います。
しかしながら、そのような基礎科学重視の認識にもかかわらず、最近の政策においてトップダウン的政策が強調され、速効的な技術革新に重点が置かれる余り、科学技術の根底を支える基盤的経費が軽視されかねない状況にあります。
また、科学の発展のためには、科学者相互のピアレビューによる評価が重要ですが、政策的な重点配分において、政策が先行して科学者相互のピアレビューが軽視されかねない懸念があります。
さらに、個々の科学者自身が課題提案を行い、その審査を科学者が相互に行うボトムアップ型の研究費配分である科学研究費のシステムの意義も軽視されかねない状況にあります。
基礎科学の発展においては、個々の科学者が創造性を発揮するとともに、科学者間で相互理解、相互批判、相互交流を行うことが重要な要素であります。近代市民社会を作り上げたイギリスにおいて、1665年よりPhilosophical Transactionsが刊行されたことは、科学的な発見が科学者の間で評価され、公開されることによって、次の新たな発展がもたらされる、という人類の知恵が結実したものであります。その後の基礎科学の発展の歴史を見れば、如何に科学研究におけるピアレビューと評価の透明性が重要であるかは明らかであります。
このような科学の発展の歴史の流れの中にあって、日本においても、科学者が相互にレビューを行うことによって研究課題を選定してゆく現行の科学研究費の制度は、科学者と行政が協力して科学・技術を推進するシステムとして、優れた研究費交付のシステムであると考えます。
また、科学研究費の制度は、個々の研究者によるボトムアップ的な研究課題提案を前提としていますので、個々の研究者の独創的研究を萌芽的な段階から支援できるということであります。日本人のノーベル賞受賞が3年続きましたが、これらの受賞研究に果した科学研究費の役割は大きいのであり、研究者によるピアレビューによる配分の制度が大きく成功していることをはっきりと示しているといえます。こうして、将来の新たなる基礎研究の展開の可能性が保障されることになります。
以上の現状認識により、以下のことを総合科学技術会議の政策決定において特に考慮いただきたいと思います。
1. 基礎分野と応用分野について、また個人研究と組織的研究について、バランスの取れた研究費配分の政策をすすめること
2. 政策的に分野が選定される大規模研究への重点配分においても、課題選定と事後評価は科学者によるピアレビューを基本とし、評価の透明性と情報公開をおこなうこと
3. 科学者によるピアレビューに基づく現在の科学研究費の制度を維持し、基礎科学研究推進のための重要な政策として位置付けること。
ピアレビューについては、科学者コミュニティの側にも、まだ改善の余地があることは確かであります。選定された研究課題が基礎科学の新しい進展を誘導しえたかどうか、という結果に関する評価については改善の余地がありますし、審査の質をさらに高めてゆく努力が科学者に対して求められます。すなわち、学術論文が学術雑誌に掲載される際の査読以上の審査の厳格性が、研究課題の選定においても求められるべきものです。 これについては、我々は、学術雑誌刊行においても、科学研究費の審査においても、より質の高い審査員を育成することに努めてゆく所存であります。すなわち、個々の研究者にあっては、自分の研究の遂行だけでなく、ピアレビューに関わって基礎科学のレベルの向上を図ることも義務である、という認識を高め、審査等に積極的に関与していくように、学会として働きかける所存であります。
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[毎日新聞2003年11月7日]
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